本島別邸 ほんじまべってい [Honjima Refuge]

本島別邸 Honjima Refuge

本島別邸は瀬戸内海に浮かぶ、300人ほどの人が住む穏やかな島の中でも、とりわけて静かな地域にあります。1000坪を超える広々とした敷地には明治から昭和中期まで建てられた建物が点在して建っています。敷地内にはもともと植えられていた木々の他に、島の植生を確認した上でここに自然に生えている樹種を追加したものもあります。この島のこの場所であるべき美しい風景を守り、そして活かしていこうとしています。
本島別邸では小さな島々が点在して浮かぶ瀬戸内海の美しい静寂の風景とともに、穏やかなさざなみの音と鳥のさえずりだけが聞こえてきます。

母屋・離れ

本島別邸で最も古い建物が離れで、明治時代に建てられました。その後、中庭を形成するようにL字型の母屋ができました。母屋と離れを囲むように複数の日本庭園がつくられていて、2つの建物のどこからも、特徴のある眺めを楽しむことができます。母屋と離れへは裏路地から長屋門をくぐってアプローチします。


母屋

もともと違う時代に建てられた2つの長方形の建物が一体化してL字型になりました。それぞれの建物には二間続きの座敷があり、床の間がついています。北側の16畳の座敷からは海への眺めが続く苔庭が見えます。南側の12畳の座敷はその中庭と山を借景とした禅的な笹庭に挟まれています。


離れ

敷地内で一番古い建物で明治時代に建てられました。6畳と4.5畳の二間が中庭に面しています。母屋を背景にした景色を楽しむことができます。屋根は他の建物と異なり、飛鳥時代など古代からの技術である本瓦で葺かれていて重厚感を感じられます。


雑木の庭

離れと母屋の玄関へは長屋門から雑木の庭を横切る石畳を通っていきます。黒い焼杉壁に四周を囲まれ、その黒い壁の色と苔の緑がよく映えます。苔と雑木との自然な調和がとても魅力的な庭にしています。


苔庭

苔庭はL字型の母屋と離れによって3方向を囲まれている中庭のような庭園です。視界が開けている方向には穏やかな瀬戸内海を大刈り込み越しに静かに眺めることができます。しっとりと穏やかに広がる苔と大刈り込みがお互いを引き立てながら、美しい瀬戸内海を借景としています。


笹庭

母屋の奥座敷には笹が敷き詰められた笹庭があります。生垣によって視界が切られた向こう側に、海に向かう山を借景としています。笹庭には禅庭と言って良い抽象的な美しさがあります。

北棟・南棟

臨海学校で使われていた北棟と南棟は大きなクスノキを挟むように建っています。クスノキの足元にはテラスがあって、かつてそこには明治時代に建てられた木造の小学校が移築されて建っていました。


北棟

最初は瓦工場として、のちに臨海学校で児童の宿泊所として使用されていた建物の一つです。現在の木板床は約20年前の映画撮影時に張られたもののようです。昔から変わらない歪みのあるガラスが木製の窓に使われています。南側の窓越しに南棟と山が見えます。


南棟

北棟と同様に瓦工場として使われていた後に、臨海学校の宿泊所となっていました。北側の窓の向こう側に大きなクスノキと北棟が見えます。床はもともとは木板でしたが、現在の床は土間となっています。中央部分に一辺約2mの古いレンガで囲まれた四角い穴が空いています。瓦工場で何かの用途で利用されていたと推測しています。


ランドスケープ

大きなクスノキが本島別邸に建つ建物群を引き立たせてくれています。クスノキの下にあるテラスにはクスノキの木漏れ日が気持ちよく降り注ぎます。母屋・離れを囲う庭園とは趣を変えて、海を目前とした場所で昔からそこにあったかもしれない、あるべき美しい風景となるように整備を行なっています。島内や近くの島で取れた石を使って組まれた石垣、春には石垣の前に咲き誇る白いハマダイコンの花、夏の日差しが反射しきらめく水面、秋には紅葉の色と取りの色彩が美しい山、奥に見える竹林など、四季を通じて美しい自然の趣きを感じることができます。


概要

本島別邸は建築家・山口誠によって2021年より整備が開始されました。初めて山口誠がこの場所を訪れた時、取り立てて建築としての歴史的価値があるわけではないけれど、忘れられないような魅力的な風景がありました。でも放っておいたらある日解体されて二度とその風景を取り戻せなくなりそうに感じました。そんな思いをきっかけに、そこにあるべき建物と風景を守り、活かすことを決めて整備を始めました。整備する時に大切だと心がけているのは、その建物がもともとあった状態に戻せるように補修・改修工事を行うことです。過剰なことを行わずに無理のない、建物と風景が自然なあり方として次代に建物を引き継げるように整備を行なっています。庭園については作庭家・西村直樹氏と協働して造園を行なっています。このサイトで掲載している本島別邸の魅力を捉えた写真は、人の営みがつくる風景をテーマに作品制作を続ける写真家・公文健太郎氏によるものです。
山口誠と公文健太郎氏が日本庭園を巡る旅「借景―隣り合うマチエール」でも、本島別邸の魅力を紹介しています。

  • 山口誠 Makoto Yamaguchi

    建築家
    1972年千葉県生まれ。東京芸術大学大学院建築専攻修士課程修了。2001年に山口誠建築設計事務所、2007年に山口誠デザイン設立。国内外でプロジェクトを手がけ、高い作品性は世界的な評価を得ている。MYD Gallery主催。「借景 - 隣り合うマチエール」をテーマに公文健太郎氏と旅を続けている。

    www.ymgci.net www.mydgallery.jp www.shakkei.jp
  • 西村直樹 Naoki Nishimura

    作庭家
    1983年生まれ。2008年 外構・土木業に従事。良い庭を求めて各地を周る。2009年 三重県四日市市にて外構・造園業として独立。西村工芸 代表

    nishimuranaoki.com
  • 公文健太郎 Kentaro Kumon

    写真家
    写真家。1981年生まれ。ルポルタージュ、ポートレートを中心に雑誌、書籍、広告で幅広く活動。同時に国内外で「人の営みがつくる風景」をテーマに作品を制作。近年は日本全国の農風景を撮影した『耕す人』、川と人のつながりを考える『暦川』、半島を旅し日本の風土と暮らしを撮った『光の地形』などを発表。最新作は瀬戸内の島に起こる過疎化をテーマに写真集『眠る島』としてドイツのKehrer社から出版。

    www.k-kumon.net